その日も、国会図書館に咲いている桜を見上げながら、ベンチに座って待つ。 「天気がいいようだな、二階堂さんとやら」 ベンチに、爺さんというのはまだ早いような、でも貫録と目力でベンチから立ち上がる気力を削いでしまうような、不思議な雰囲気の男が座ってきた。 俺は黙っていた。知らない男が名前をいったからといって俺のこととは限らない。 ただ、そんな偶然があるわけがないことは、俺は知っていた。 「以前、お会いしましたな」 顔を見る。 「ああ、對馬さん」 サッポロビールの会長と仲がいい、そして立花隆の「田中角栄研究」の最後のページに名前が出てくる、いわゆるフィクサーだ。南青山の寿司屋で、顔を合わせていた。 「ところで、いまから知り合いのところにいくから、会ってみないか。内外タイムスの社主をやっていて、笹川良一の懐刀を何年もやっていた遠矢という人だよ」 「ご存じだったんですか」 「この時代、インターネットも見ないとだめだ」 とても老人には思えない。 「さぁ、行こう」 国会図書館の前に、センチュリーが止まっていて、そこに促される。ドアを開けると、
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その日も、国会図書館に咲いている桜を見上げながら、ベンチに座って待つ。
「天気がいいようだな、二階堂さんとやら」
ベンチに、爺さんというのはまだ早いような、でも貫録と目力でベンチから立ち上がる気力を削いでしまうような、不思議な雰囲気の男が座ってきた。
俺は黙っていた。知らない男が名前をいったからといって俺のこととは限らない。
ただ、そんな偶然があるわけがないことは、俺は知っていた。
「以前、お会いしましたな」
顔を見る。
「ああ、對馬さん」
サッポロビールの会長と仲がいい、そして立花隆の「田中角栄研究」の最後のページに名前が出てくる、いわゆるフィクサーだ。南青山の寿司屋で、顔を合わせていた。
「ところで、いまから知り合いのところにいくから、会ってみないか。内外タイムスの社主をやっていて、笹川良一の懐刀を何年もやっていた遠矢という人だよ」
「ご存じだったんですか」
「この時代、インターネットも見ないとだめだ」
とても老人には思えない。
「さぁ、行こう」
国会図書館の前に、センチュリーが止まっていて、そこに促される。ドアを開けると、